船尾《せんび》の方《かた》へ來《き》て

感《かん》じたと見《み》へ`『あの艫《とも》の方《はう》へでもいらつしやいませんか。』と私《わたくし》を促《うなが》しつゝ蓮歩《れんぽ》を彼方《かなた》へ移《うつ》した。`頓《やが》て船尾《せんび》の方《かた》へ來《き》て見《み》ると、此處《こゝ》は人影《ひとかげ》も稀《まれ》で、既《すで》に洗淨《せんじよう》を終《をは》つて、幾分《いくぶん》の水氣《すゐき》を帶《お》びて居《を》る甲板《かんぱん》の上《うへ》には、月《つき》の色《ひかり》も一段《いちだん》と冴渡《さへわた》つて居《を》る。`『矢張《やはり》靜《しづ》かな所《ところ》が宜《よ》う厶《ござ》いますねえ。』と春枝夫人《はるえふじん》は此時《このとき》淋《さび》しき笑《えみ》を浮《うか》べて、日出雄少年《ひでをせうねん》と共《とも》にずつと船端《せんたん》へ行《い》つて、鐵欄《てすり》に凭《もた》れて遙《はる》かなる埠頭《はとば》の方《はう》を眺《なが》めつゝ`『日出雄《ひでを》や、あの向《むか》ふに見《み》える高《たか》い山《やま》を覺《おぼ》えておいでかえ。』と住馴《すみな》れし子ープルス[#「子ープルス」に二重傍線]市街《まち》の東南《とうなん》に聳《そび》ゆる山《やま》を指《ゆびざ》すと、日出雄少年《ひでをせうねん》は`『モリス[#「モリス」に二重傍線]山《ざん》でせう、私《わたくし》はよつく覺《おぼ》えて居《ゐ》ますよ。』とパツチリとした眼《め》で母君《はゝぎみ》の顏《かほ》を見上《みあ》げた。`『おゝ、それなら、あの電氣燈《でんきとう》が澤山《たくさん》に輝《かゞや》いて、大《おほ》きな煙筒《けむりだし》が五|本《ほん》も

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