甲板《かんぱん》の工合《ぐあひ》

甲板《かんぱん》の工合《ぐあひ》を見《み》やうとする、丁度《ちやうど》此時《このとき》先方《むかふ》の船《ふね》でも、一個《ひとり》の船員《せんゐん》らしい男《をとこ》が、船橋《せんけう》の上《うへ》から一心《いつしん》に双眼鏡《そうがんきやう》を我《わ》が船《ふね》に向《む》けて居《を》つたが、不思議《ふしぎ》だ、私《わたくし》の視線《しせん》と彼方《かなた》の視線《しせん》とが端《はし》なくも衝突《しようとつ》すると、忽《たちま》ち彼男《かなた》は双眼鏡《そうがんきやう》をかなぐり捨《す》てゝ、乾顏《そしらぬかほ》に横《よこ》を向《む》いた。其《その》擧動《ふるまひ》のあまりに奇怪《きくわい》なので私《わたくし》は思《おも》はず小首《こくび》を傾《かたむ》けたが、此時《このとき》何故《なにゆゑ》とも知《し》れず偶然《ぐうぜん》にも胸《むね》に浮《うか》んで來《き》た一《ひと》つの物語《ものがたり》がある。それは忘《わす》れもせぬ去年《きよねん》の秋《あき》の事《こと》で、私《わたくし》が米國《ベイこく》から歐羅巴《エウロツパ》へ渡《わた》る航海中《かうかいちう》で、ふと一人《ひとり》の英國《イギリス》の老水夫《らうすゐふ》と懇意《こんい》になつた。其《その》[#ルビの「その」は底本では「たの」]老水夫《らうすゐふ》がいろ/\の興味《けうみ》ある話《はなし》の中《なか》で、最《もつと》も深《ふか》く私《わたくし》の心《こゝろ》に刻《きざ》まれて居《を》るのは、世《よ》に一番《いちばん》に恐《おそ》ろしい航路《かうろ》は印度洋《インドやう》だとうふ物語《ものがたり》、亞弗利加洲《アフリカしう》の東方《ひがしのかた》、マダカッスル[#「マダカッスル」に二重傍線]島《たう》からも餘程《よほど》離《はな》れて、世《よ》の人《ひと》は夢《ゆめ》にも知《し》らない海賊島《かいぞくたう》といふのがある相《さう》だ、無論《むろん》世界地圖《せかいちづ》には見《み》る事《こと》の出來《でき》ぬ孤島《こたう》であるが、其處《そこ》には

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