微《かす》かな笑《えみ》

と問《と》ふと、夫人《ふじん》は微《かす》かな笑《えみ》を浮《うか》べ`『イエ、此《この》兒《こ》はよく眠《ねむ》りましたが、私《わたくし》は船《ふね》に馴《な》れませんので。』と答《こた》ふ。さもありぬべし、雪《ゆき》を欺《あざむ》く頬《ほう》の邊《へん》、幾分《いくぶん》の蒼色《あをみ》を帶《お》びたるは、たしかに睡眠《ねむり》の足《た》らぬ事《こと》を證《しよう》して居《を》る。船中《せんちゆう》朝《あさ》の食事《しよくじ》は「スープ」の他《ほか》冷肉《れいにく》、「ライスカレー」、「カフヒー」それに香料《にほひ》の入《い》つた美麗《うるは》しき菓子《くわし》、其他《そのほか》「パインアツプル」等《とう》極《きは》めて淡泊《たんぱく》な食事《しよくじ》で、それが濟《す》むと、日出雄少年《ひでをせうねん》は何《なに》より前《さき》に甲板《かんぱん》を目指《めざ》して走《はし》つて行《ゆ》くので、夫人《ふじん》も私《わたくし》も其《その》後《あと》に續《つゞ》いた。`甲板《かんぱん》へ出《で》て見《み》ると、弦月丸《げんげつまる》は昨夜《ゆふべ》の間《あひだ》にカプリ[#「カプリ」に二重傍線]島《とう》の沖《おき》を※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、58-1]《す》ぎ、今《いま》はリコシア[#「リコシア」に二重傍線]の岬《みさき》を斜《なゝめ》に見《み》て進航《しんかう》して居《を》る、季節《せつ》は五|月《ぐわつ》の中旬《なかば》、暑《あつ》からず寒《さむ》からぬ時※[#「候」の「ユ」に代えて「工」、58-3]《じこう》、加《くは》ふるに此邊《このへん》一|帶《たい》の風光《ふうくわう》は宛然《えんぜん》たる畫中《ぐわちゆう》の景《けい》で、すでに水平線上《すゐへいせんじやう》に高《たか》く昇《のぼ》つた太陽《たいよう》は燦爛《さんらん》たる光《ひかり》を水《みづ》に落《おと》して

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