地中海《ちちゆうかい》に入《い》り

やうにと只管《ひたすら》天《てん》に祈《いの》るの他《ほか》はないのである。`ネープルス[#「ネープルス」に二重傍線]港《かう》から海路《かいろ》數《すう》千|里《り》、多島海《たたうかい》を※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、60-7]《す》ぎ、地中海《ちちゆうかい》に入《い》り、ポートセツト[#「ポートセツト」に二重傍線]にて石炭《せきたん》及《およ》び飮料水《ゐんりようすゐ》を補充《ほじう》して、それより水先案内《みづさきあんない》をとつてスエス[#「スエス」に二重傍線]の地峽《ちけう》を※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、60-9]《す》ぎ、往昔《むかし》から世界《せかい》第《だい》一の難所《なんしよ》と航海者《かうかいしや》の膽《きも》を寒《さむ》からしめた、紅海《こうかい》一|名《めい》死海《しかい》と呼《よ》ばれたる荒海《あらうみ》の血汐《ちしほ》の如《ごと》き波濤《なみ》の上《うへ》を駛《はし》つて、右舷《うげん》左舷《さげん》より眺《なが》むる海上《かいじやう》には、此邊《このへん》空氣《くうき》の不思議《ふしぎ》なる作用《さよう》にて、遠《とほ》き島《しま》は近《ちか》く見《み》え、近《ちか》き船《ふね》は却《かへつ》て遠《とほ》く見《み》え、其爲《そのため》に數知《かずし》[#ルビの「かずし」は底本では「かずす」]れず不測《ふそく》の禍《わざはひ》を釀《かも》して、此《この》洋中《やうちゆう》に難破《なんぱ》せる沈沒船《ちんぼつせん》の船體《せんたい》は既《すで》に海底《かいてい》に朽《く》ちて、名殘《なごり》の檣頭《しやうとう》のみ波間《はかん》に隱見《いんけん》せる其《その》物凄《ものすご》き光景《くわうけい》を吊《とふら》ひつゝ、進《すゝ》み進《すゝ》んで遂《つひ》に印度洋《インドやう》の海口《かいこう》ともいふ可《べ》きアデン[#「アデン」に二重傍線]灣《わん》に達《たつ》し、遙《はる》かにソコトラ[#「ソコトラ」に二重傍線]島《じま》を煙波《えんぱ》縹茫《へうぼう》たる沖《おき》に望《のぞ》むまで、大約《たいやく》二|週間《しうかん》の航路《かうろ》

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