お雪が住む家の茶の間

[#ここから2字下げ]そのあたり片づけて吊る蚊帳《かちょう》哉《かな》さらぬだに暑くるしきを木綿蚊帳《もめんがや》家中《いえじゅう》は秋の西日や溝《どぶ》のふちわび住みや団扇《うちわ》も折れて秋暑し蚊帳の穴むすびむすびて九月哉屑籠《くづかご》の中からも出て鳴く蚊かな残る蚊をかぞへる壁や...

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わたくしがふと心易くなった溝際の家

 わたくしがふと心易くなった溝際の家……お雪という女の住む家が、この土地では大正開拓期の盛時を想起《おもいおこ》させる一隅に在ったのも、わたくしの如き時運に取り残された身には、何やら深い因縁があったように思われる。其家は大正道路から唯《と》ある路地に入り、汚れた幟《のぼり》の立っている伏見稲荷の前を...

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東武電車

 此《ここ》に於てわたくしの憂慮するところは、この町の附近、若《も》しくは東武電車の中などで、文学者と新聞記者とに出会わぬようにする事だけである。この他《た》の人達には何処で会おうと、後をつけられようと、一向に差閊《さしつかえ》はない。謹厳な人達からは年少の頃から見限られた身である。親類の子供もわた...

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