穿き馴れぬ古下駄

 わたくしは素足に穿き馴れぬ古下駄を突掛《つッか》けているので、物に躓《つまず》いたり、人に足を踏まれたりして、怪我をしないように気をつけながら、人ごみの中を歩いて向側の路地の突当りにある稲荷に参詣《さんけい》した。ここにも夜店がつづき、祠《ほこら》の横手の稍《やや》広い空地は、植木屋が一面に並べた...

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火種を絶さぬ茶の間

[#8字下げ]八[#「八」は中見出し]

 来そうに思われた夕立も来る様子はなく、火種を絶さぬ茶の間の蒸暑さと蚊の群とを恐れて、わたくしは一時外へ出たのであるが、帰るにはまだ少し早いらしいので、溝づたいに路地を抜け、ここにも板橋のかかっている表の横町に出た。両側に縁日|商人《あきゅうど》が店を並べて...

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お雪さんが初めて逢った日の事

 わたくしは今、お雪さんが初めて逢った日の事を咏嘆的な調子で言出したのに対して、答うべき言葉を見付けかね、煙草の烟《けむり》の中にせめて顔だけでもかくしたい気がしてまたもや巻煙草を取出した。お雪は黒目がちの目でじっと此方《こなた》を見詰めながら、「あなた。ほんとに能く肖《に》ているわ。あの晩、あた...

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