お雪さんが初めて逢った日の事

 わたくしは今、お雪さんが初めて逢った日の事を咏嘆的な調子で言出したのに対して、答うべき言葉を見付けかね、煙草の烟《けむり》の中にせめて顔だけでもかくしたい気がしてまたもや巻煙草を取出した。お雪は黒目がちの目でじっと此方《こなた》を見詰めながら、「あなた。ほんとに能く肖《に》ているわ。あの晩、あた...

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正義の宮殿

 わたくしはこの東京のみならず、西洋に在っても、売笑の巷《ちまた》の外、殆《ほとんど》その他の社会を知らないと云ってもよい。其由来はここに述べたくもなく、又述べる必要もあるまい。若しわたくしなる一人物の何者たるかを知りたいと云うような酔興な人があったなら、わたくしが中年のころにつくった対話「昼すぎ」...

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わたしの年は水商売には向くんだ

「わたしの年は水商売には向くんだとさ。だけれど行先の事はわからないわ。ネエ。」 じっと顔を見詰められたので、わたくしは再び妙に不安な心持がした。まさかとは思うものの、何だか奥歯に物の挾《はさ》まっているような心持がして、此度《こんど》はわたくしの方が空の方へでも顔を外向《そむ》けたくなった。 表...

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